ハンターハンターは、物語が非常に自然な流れで進行するため、気づけば次の章に移っていることが多い。
その展開のスムーズさは「オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」の人でも見逃すレベルだと思う。
しかし、キメラアント編に関しては、これまでの流れとは一線を画し、特異かつ唐突に始まったことで、多くの読者が違和感を抱いたはずだ。
さらに、ジャイロやディーゴ総帥(本物)など、深く掘り下げられなかった要素も多く「結局、なんだったのだろう?」と疑問を持った人も少なくないはず。
キメラアント編は、作中で最も長く、強烈なメッセージ性を持つ章でもある。
冨樫先生はこの章を通して、一体何を伝えたかったのだろうか?
僕なりにキメラアント編を考察していたら以下の4つの説が浮上した。
- 説①:ネテロ会長を殺した真犯人はパリストンかビヨンド説(もしくは両方)
- 説②:実はネテロ会長はとんでもない『負の側面』を持っていた説
- 説③:ジャイロの正体は『ヒトとアリの対比』が具現化された存在説
- 説④:本当の敵は結局ヒト説
一見、バラバラに見えるが、すべてが繋がっている。
ぜひ、最後まで読み進めてみてほしい。
キメラアントの出現は偶然か?それとも・・・
まず、最初に注目したいのは、キメラアントの突然の出現について。
キメラアントの女王(外来種)が人間の世界にどうやって来たのか理由や謎は明かされていない。
一体どのようにしてやってきたのか?
考えられる可能性は2つ。
- 自然的な発生
- 人為的な出現
順番に解説していく。
自然的な発生
自然的な発生の場合、さらに2つのシナリオに分けられる。
- 女王自身の意思でやってきた
- 偶発的またはやむを得ず来た
女王自身の意思でやってきた
女王自身の意思でやって来たの可能性は極めて低いと考えられる。
なぜなら、王を産むという重大な使命を抱えていたから。
水性生物でもない純粋なキメラアントが、暗黒大陸から超巨大な船(ブラックホエール号)ですら、数ヶ月かかるほど、遠く険しい海を生身で泳いで渡ろうとするなんて自殺行為に等しい。
使命を果たそうとする意思があるとは思えない。
100歩譲って険しい道のりを超えて人間をエサにする目的で来たのならまだ分かる。
しかし、人間(エサ)の存在すら知らなかったため、その線もない。
よって、動機と方法を含めて可能性は極めて低いと判断できる。
偶発的またはやむを得ず来た
偶発的またはやむを得ず来た可能性はまだあり得る。
暗黒大陸での生物競争に敗れた結果、海に出ざるを得なくなったり、自然災害的なものに巻き込まれて流れ着いた先が人間がいる世界だった可能性は、動機としてあり得る。
しかし、暗黒大陸から生身で海を渡って人間の世界に来るのは「ちょっと難しすぎるんじゃないか?」という問題は残るため、自然にやってきた可能性はどちらにしても、あまり現実的ではない。
作中で描かれていないワープや転送のような方法を除くと 人為的に何者かがキメラアントの女王を連れてきたと考えるのが最も合理的な結論だろう。
人為的な出現
前述した通り、キメラアントは何者かが人為的に連れてきた可能性が高い。
では、一体誰が何のために危険な生物を人間の世界に解き放ったのだろう?
外来種(キメラアント)を人間のいる世界に連れて来れる条件を洗い出し、人物を特定してみたい。
- 条件1:相応の実力
- 条件2:ある程度の権力
- 条件3:明確な目的
先に結論を書いておくと、パリストン(とビヨンド)はすべての条件を満たしている。
その前提で見た方が理解もしやすいかもしれない。
※ただし、ビヨンドの情報はほとんど出ていないため、ややパリストン寄りの考察になる。
黒幕の条件1:相応の実力
最低でも暗黒大陸に挑戦できるレベルじゃないと話にならない。
なぜなら、未知の大陸で未知の生物を捕獲して連れて帰らないといけないから。(厳密には未知ではないかもしれないが)
キメラアントは念がない状態でも高い戦闘能力を持っている。
ゴンたちやポックルを例に出すと分かりやすい。
まだ念を習得していない兵隊長クラス(パイク)にすらポックルは苦戦していた。
相手が頭の悪いパイクだったから善戦できたものの、他の兵隊長クラスになら負けていた可能性も十分にあり得る。(師団長クラスならほぼ負け確)
ゴンとキルアに関しては、2人がかりでラモットと対峙し、苦戦こそしなかったものの仕留め損なっていた。
当時のゴンとキルアは発展途上とはいえ、グリードアイランドを踏破し、ハンターとしても十分の実力を持っていた。
以上を踏まえると、キメラアントを制御下における(それなりに実力を持った)人物でなければならない。
黒幕の条件2:ある程度の権力
暗黒大陸は人類のタブーであるため、暗黒大陸に関する情報はごく一部の者しか知らない。
最低でも外来種(キメラアント)の存在をあらかじめ知っておく必要がある。
仮にキメラアントをリアルタイムで捕獲したのではなく、人間のいる世界で隔離や研究をしていたのだとしても、その情報を握っている人物でなければならない。
人類のタブーである情報にアクセス、もしくは集まる(ある程度の権力を持った)人物でなければならない。
黒幕の条件3:明確な目的
外来種(キメラアント)を人類の住む地に解き放つことには、いくつものリスクが含まれている。
リスク①:解き放った者の安全が保障されていない
キメラアントの成長や繁殖が想定を超えていた場合、人類が滅亡していた可能性すらあった。
リスク②:解き放つ前にバレる
計画そのものが実行前に露見すれば、弾圧や処罰の対象になる可能性もあった。
リスク③:キメラアントが想定通りに動いてくれるとは限らない
NGL(バルサ諸島)にキメラアントを解き放った後、どんな行動を取るかは未知数。すぐに見つかって討伐される可能性も、討伐されなくても普通にのたれ死んでいた可能性もある。
多くのリスクを背負ってまで外来種を人為的に連れてきたの者には、必ず明確な目的がある。
では、明確な目的とは何か?
それは暗黒大陸への進出だ。
パリストンとビヨンドに都合が良すぎた流れ
よくよく振り返ってみると、一連の騒動は誰か(パリストンやビヨンド)にとって都合が良すぎる。
たまたま、情報が外部に漏れない国(NGL)にキメラアントの女王が流れつき
たまたま、情報が外部に漏れなかったからキメラアントの発見に遅れて
たまたま、ネテロ会長でも勝てないレベルに成長した個体(メルエム)が現れた。
たまたま、NGL(バルサ諸島)はヨルビアン大陸に位置していたから
たまたま、エイジアン大陸だったカキンは何の被害も受けなかった。
たまたま、被害を受けなかったカキンは
たまたま、200年も前から結ばれていた不可侵条約に加盟しておらず
たまたま、20万人を乗せられる超巨大船を建造していた。
たまたま、そのカキンが十二支んですら存在を知らなかったビヨンド(ネテロ会長の息子)と手を組んでいて
たまたま、ネテロ会長の死後すぐに暗黒大陸への進出を発表した。
たまたま、ビヨンドは協専を抱えていたパリストンとも手を組んでいて
たまたま、協専には暗黒大陸攻略の専門家(スペシャリスト)たちが待機していた。
偶然にしてはあまりに都合が良すぎる。
しかし、これが偶然ではなく誰かの描いたシナリオだったとしたらどうだろう?
例えば、総選挙編であらゆる猛者を手中で転がし、ネテロ会長ですら御しきれなかったと言われたパリストンとか。
パリストンの不可解な行動
パリストンが裏で暗躍していた仮定に基づいて振り返ると、彼の不可解な行動にも一貫性が見られる。
パリストンの不可解な行動①:キメラアント討伐の妨害
キメラアントが各地で暴れていると知っていたが、協力するどころか討伐の妨害をしていた。(22巻参照)
パリストンの不可解な行動②:キメラアントの早すぎる回収
キメラアント騒動が終わると同時に繭になったキメラアント5000体の回収していた。(30巻参照)
しかも、ジン以外の誰にも知られていなかった。
パリストンの不可解な行動③:ビヨンド側へ計画を提供していた。
パリストンは「我々に計画を提供した」とビヨンド側の人間(マッシュルームみたいな男)が発言していた。(33巻参照)
なぜ、パリストンは人類の敵であるはずのキメラアント討伐の妨害をしていたのか?
→スムーズに討伐が進んでしまうと困るから。
なぜ、スムーズに討伐されたら困るのか?
→ネテロ会長が死なないから。
なぜ、ネテロ会長が死なないと困るのか?
→ネテロ会長が生きていると暗黒大陸に進出できないから。
なぜ、キメラアントの繭を速やかに回収できたのか?
→キメラアントを元々知っていたから。
『提供した計画』とは何のことだろうか?
決まっている。暗黒大陸へ行くための計画だ。
ネテロ会長の死は仕組まれていた?
では、一体どこからどこまでが計画だったのだろう?
そのヒントとなるのが、ネテロ会長の遺言と死ぬタイミングだ。
ネテロ会長はヒゲと髪の長さからメルエムが生まれる前から、十二支んへの遺言を残していたことが分かる。
人は遅かれ早かれいつか死ぬから遺言を残すのは当然だろう。
問題はネテロ会長が死ぬタイミングとビヨンドと交わした約束。
ビヨンドはネテロ会長が死ぬまで暗黒大陸に行くことはできかった。
では、キメラアントの騒動がなければネテロ会長が死ぬのはいつになっただろう?
数年後?数十年後?
『個』として最強の座に君臨していた人物が死ぬタイミングなんて通常は予測できない。
そう、通常であれば。
しかし、意図的に死ぬシチュエーションさえ作ってしまえば、最強の人物でさえ死ぬタイミングを予測することはできる。
そして、死ぬタイミングを予測できるなら、そのタイミングに合わせて暗黒大陸へ行く準備を進めることも可能。
では、ネテロ会長が死ぬシチュエーションとは?
→ネテロ会長よりも強い存在をぶつけること。
ネテロ会長より強い存在とは?
→外来種(キメラアント)だ。
パリストンが人心掌握に長けていることは総選挙編でも明らか。
そんな彼だからこそ、ネテロ会長の立場や後述する『負の側面』や願望にも気づいていたはず。
以上のことを踏まえると、突然キメラアントが突然現れた理由も、カキンの暗黒大陸進出のタイミングがあまりに良すぎた点も、パリストンの不可解な行動も、すべてが繋がる。
実はネテロ会長はとんでもない『負の側面』を持っていた説
パリストンとビヨンドの計略によって、作中でも屈指の名バトルを見せてくれたネテロ会長。
しかし、彼の人物像や過去は断片的にしか描かれておらず、未だ謎が多く残る人物でもある。
ネテロ会長はどんな思いでキメラアントの討伐に参加し、どんな人生を歩んできたのか?
キメラアント編を考察していたら、作中では語られていないネテロ会長の内面が垣間見えたので紹介したい。
まずは、ネテロ会長に関する情報を見てみよう。
- ハンター協会の会長
- 年齢は100歳を軽く超えている
- 能力は百式観音
- 念系統は強化系
ここまでは客観的に誰が見ても相違が生まれない確定事項。
- 恐ろしいほどの先を見通す力がある
- 人が悪いことで有名
- 念がおそろしく静か
- 精神的には植物の域
- 面白いと思ったら何でもする
- シャレにならない難題を自分にも他人にもふっかける
これらはキャラクターの発言や描写から読み取れる情報。
状況や人によって見え方が異なる可能性があるため絶対ではない。
物語が進んでしまった今では、ネテロ会長の印象が変わってしまった人も多いと思う。
キメラアント編に突入するまでは、ハンター試験編の印象や、ヒゲやチョンマゲの風貌などから、何となく「優しそう」とか「良い人そう」と感じていた読者は多いのではないだろうか?
また、それは読者だけでなく、作中の(一部を除く)登場人物も同じなのかもしれない。
上記を踏まえて、以下の考察へ進む。
- ネテロ会長の置かれていた立場
- 百式観音が能力になった理由
- 百式観音が泣いていた理由(実はネテロ会長はとんでもない『負の側面』を持っていた説)
- ネテロ会長のもう1つの役割
①ネテロ会長の置かれていた立場
ネテロ会長はハンター協会の長として、任務(メルエムを殺す)を絶対に(命を賭してでも)成功させないといけなかった。
もし、任務に失敗した場合、ハンターへの信頼は失墜し、ライセンスが通用しなくなる、もしくはハンター協会そのものが解体されるなどの可能性が考えられる。(もっと言うと人類の存続さえかかっていた)
ゆえにネテロ会長はハンター協会のため、あるいは人間という『種』のために戦わざるを得ない立場だった。
だからこそ、同じ立場(種の長)のメルエムに対して「王よ。お互い大変だな」とこぼしつつも、言葉でのやり取りに応じることは一切なかったのだろう。
一方で、チードルの「自分で狩りたかった」という発言通り、メルエムとタイマンで戦うことを『個』としても望んだ。
もし『個』として戦いを望んでいないのであれば、名前を交渉材料にする必要もなく、分断に成功したら『種』のために問答無用で能力を繰り出してミニチュアローズを発動させればいいだけのこと。
以上のことから、ネテロ会長は『種の長』として戦わざるを得ない立場であったと同時に『個』としても戦いたいと望んだことが分かる。
パリストンは、ネテロ会長の立場と望みをよく理解していたからこそ、キメラアントを使用した計画を実行したのではないだろうか?
②百式観音が能力になった理由
ネテロ会長の能力は『百式観音』
ネテロ会長の型(動き)に連動して、具現化された百式観音が傀儡人形のように攻撃を繰り出し、ピトーやメルエムでさえ回避困難な速攻であると同時に高い破壊力を持つ。
壱乃掌を繰り出した後のクレーターを見る限り、ウボォーギンのビックバンインパクトにも引けを取らない威力と推察できる。
強化系のネテロ会長が『百式観音』のような複雑な能力をなぜ会得できたのかは詳しく解説されていない。
道場の師範代っぽい人が、ネテロ会長の正拳突きを見て「観音様が・・・!」と言っていたため、山で『感謝の正拳突き』と『祈り』を狂気に近い感情で繰り返し行ったことが礎(もしくは予兆)になったのは間違いないと思う。
しかし、僕は山を降りた時点では、まだ『百式観音』は完全に能力になっていなかったと考えている。
その考えに至ったのは、僕の趣味が神社仏閣巡りだからだろうか、なぜ観音様が戦うんだろう?という疑問がよぎったからだ。
『百式観音』は一見、強敵を前に感謝を示せるネテロ会長(仏のような人)に相応しい能力に思える。
しかし、観音様とは本来救いの手を差し伸べる存在であり、戦いとは無縁。
戦うことを目的とするなら、明王や仁王の方が役割としても存在としても能力的に相応しいはず。
なのに、なぜ救いの象徴のような存在が能力になったのか?
そのヒントは開戦時のネテロ会長の胸中に隠されていた。
「一体いつからだ。敗けた相手が頭を下げながら差し出してくる両の手に間を置かず応えられるようになったのは?」
文脈的に羽化してからのネテロ会長に同じようなことがあったのは、1度や2度ではないのだろう。
ネテロ会長と戦った相手は皆が両の手を差し出してきたと予想できる。
では『両の手を差し出す』とは何のことだろう?
おそらく『感謝』されることだ。
ネテロ会長は戦った相手から何度も何度も感謝をされてきた。
では、どんな時に人は『感謝』をするだろう?
それは救われた時だ。
ネテロ会長は戦った相手を幾度となく救い、感謝されてきた。
感謝された理由は、おそらく「武の高みを見せてくれた」とか「敗色濃い難敵に出会えた」とか、ネテロ会長と似たような理由だったと思う。
能力が明王や仁王ではなく、救いの象徴である観音様になったのは、多くの人を救ったからではないだろうか?
そして『百式観音』が完全な能力として目覚めたのは、多くの人々を救った後に副次的に生まれたのではないかと考察する。
③百式観音が泣いていた理由(実はネテロ会長はとんでもない『負の側面』を持っていた説)
『百式観音』が血の涙を流していたことに気づいた人はいるだろうか?
一見すると些細な描写だが、僕には「救いの象徴」である観音様の涙の理由が気になって仕方なかった。
そして、涙の理由を考察していると、ネテロ会長が抱えていた『負の側面』に辿り着いた。
『百式観音』の涙の理由と共にネテロ会長の穏やかな雰囲気に隠されていた『負の側面』を紐解いていこう。
『百式観音』が血の涙を流していた理由としては以下の3つの可能性が考えられる。
- 血の涙の理由①:ただのデザイン
- 血の涙の理由②:救いの象徴である観音様が戦わされているから
- 血の涙の理由③:ネテロ会長の心が反映されているから
僕は③の『ネテロ会長の心が反映されているから』と結論づけた。
その理由は『零の掌』を放つ瞬間だけ百式観音の涙が止まるからだ。
単なるデザインや観音様が戦わされているという理由なら、涙が止まることはないはず。
『零の手』を放ったシーンを再度見直してみよう。
『零の掌』は、親指と人差し指で輪(零)を作り、中指を立てる型で発動する。
発動中のネテロ会長の形相は、普段の穏やかさが失われ、憎悪に満ちたような表情を浮かべていた。
なぜ『零の掌』を放つ瞬間だけ涙が止まるのか?
なぜネテロ会長の表情は憎悪に満ちていたのか?
ネテロ会長はたくさんの人を救ってきた。
しかし、彼自身のことは一体誰が救ってくれるのだろう?
救ってくれる存在などいない。
だから観音様は泣いていたし、ネテロ会長は憎悪していたのだ。
『零の掌』はネテロ会長の切り札。
切り札は、基本的に使う必要がなければ隠しておくもの。
ネテロ会長に関しては、強すぎて切り札どころか百式観音を使う機会すらほとんどなかっただろう。
だから、使う機会が訪れなかった『零の掌』の型が『中指を立てる』(切り札を使う機会がないことへの当てつけ)だったと解釈することもできる。
そう考えると、メルエム(自分と対等以上に戦える存在)の出会いに感謝を示したことにも、戦いを楽しんでいたことにも、今まで切ることのできなかった切り札を使用した瞬間に『百式観音』から涙が消えたことにも納得がいく。
武を極めて感謝にたどり着いたネテロ会長に待ち受けていたのは、皮肉なことに真の敵が現れない苦痛の日々。
ネテロ会長の能力『百式観音』は、他者から見ると救いの象徴であると同時に(ネテロ自身の)救われたい(自分以上の存在と戦いたい)という願望が『百式観音』の涙として表れていたのかもしれない。
ゼノの言っていた「精神が植物の域」というのは、ある意味正しく、ある意味間違っていのだと僕は思う。
(僕の説が正しいという前提だけど)パリストンやビヨンドはネテロ会長を殺した。
だが、イエスマンでは絶対に成し得なかったこと(苦痛の日々からの解放)をしてあげたとも言える。
パリストンはネテロ会長の本質を理解していた数少ない人物のうちの一人だったのかもしれない。
④ネテロ会長のもう1つの役割
キメラアント編で大活躍をしたネテロ会長だが、彼が残したのは単なる戦闘だけではない。
キメラアント編に込められたメッセージをより強めるための重要な役割があった。
その役割が浮き彫りになるのが次の考察。
ジャイロの正体は『ヒトとアリの対比』が具現化された存在説
パリストンやネテロ会長以上に正体不明の存在がジャイロ。
ほとんど名前のみの登場だが、キメラアント編では重要な役割があった。
彼がいなければ、作中のような終結を迎えることはなかっただろう。
そんな謎の多いジャイロの正体は『ヒトとアリの対比』を描くために登場させたキャラクターなのではないか?という説が僕の中で浮上したので唱えたい。
ヒトとアリに込められたメッセージ
(推測でしかないけど)パリストンとビヨンドの暗躍によって、世界各地(主にヨルビアン大陸)で混乱を巻き起こしたキメラアント。
突然始まったことと『ヒトを食べる』というインパクトで、キメラアントはとてつもなくヤバくて一刻も早く討伐しないといけない存在と感じた。
しかし、結果だけを見ると、ヒトが(自我や欲望によって)無秩序をもたらす存在で、アリが(個ではなく種のために)秩序をもたらしていたことがわかる。
言い換えるとヒトが悪で、アリが善。
※悪も善も立場や見方によって変わるし、悪が気まぐれに善行だってするし、善だった者が悪さをすることもあるから、厳密には完全に分けられる訳じゃないけどわかりやすいから悪と善で表現してる。
そう考えられる理由を順番に書いていく。
キメラアントが人間にもたらしたもの
まず、NGLは機械文明を捨てて自然と共に生きることを謳っていたが、実態は裏で麻薬の生産を行う腐敗した組織だった。
しかも、麻薬をばら撒いたのは手始めで、本当はもっと大きな悪巧みをしていた。
そこにアリが現れたことでNGLに巣くっていた悪は根絶やしにされ、(たくさんの被害者が出たとはいえ)純粋に自然の中で生きる人たちだけが残った。
東ゴルトーも同じく、独裁者によって行われていた悪政がアリによって終わらされた。
すなわち、秩序がもたらされた。
人間がキメラアントにもたらしたもの
一方、アリ側は女王のために忠実に働く存在だったはずの者たちが、ヒト(NGLの悪人たち)を取り込んでしまったことで自分勝手に動き回るようになった。
まさに無秩序状態。
しかも、食糧としてではなく、快楽のためだけに人間を殺す存在が増えたことで、より人間側の犠牲者が増えることにもなった。(女王のエサを無駄にしたとも言える)
極めつけは、キメラアントの敗因がヒトを取り込んだこと。
キメラアントがヒト(悪)を取り込んでいなければ、すべてのアリが女王もしくは王に忠実になっていたと予想される。(コルトやペギーがそうだったように)
その場合、キメラアントの討伐の難易度は格段に上がっていただろう。
なぜなら、自我(自分勝手な思惑)が介在しない分、純粋なアリの性質(女王や王を守ろうとする意思)のみで行動をしていたはずだからだ。
もし、そうなっていた場合、完全な統率力に加えて、念能力すらも女王や王を守ることに特化されていたため、ネテロ会長ですら手出しできなかった可能性が生まれる。(エイ=イ一家の件で守りに特化した能力の厄介さがより浮き彫りになった←しかもほぼの念の素人)
そして、キメラアントがネテロ会長に大量討伐される事態も回避できたと考えられる。
一応、ヂートゥやレオル(ハギャ)たちは、表面上は従う素振りを見せていたが、心の中では自己中心的な理由で行動をしていた。
そして、護衛軍は彼らの下心を見抜いていたが故に小さな(失敗しても問題ない)仕事しか任せなかった。
要するにキメラアントはヒト(悪)を取り込んでしまったために、護衛軍以下(自我を持ったアリ)は信用できない存在になってしまった。(ウェルフィンに関しては最終的に王にすら反旗を翻した)
ゆえにピトー・プフ・ユピーだけになり、普段の警護はもちろん襲撃時の対処や襲撃後のカバーなど、3人だけではできることが極端に少なくなり、王の分断を招くことになった。(ちなみに僕は師団長クラスのポテンシャルは幻影旅団にも全然負けていないと思っているんだけど、ここで説明すると話がズレるからまた違う機会に)
さらに追加すると、キメラアントが自我を持たなかった(護衛軍と同じ意識だった)場合、女王や王に自らの身体を捧げることも厭わなかったと推測できる。
その場合、部下を食べたメルエムは作中で描かれているよりも格段に強化されることになる。
仮に分断に成功したとしても、ミニチュアローズでさえ(能力などで)回避されていた可能性が生まれる。
女王はヒト(悪)を最高のエサと言っていたが、実は最悪のエサ(毒)だった。
ミニチュアローズのゆっくり巡る毒(悪意)とかかっている気がしてならない。
ヒトとアリの対比
キメラアント編では善悪に限らず、さまざまな対比描写がされている。
例えば
使命より想いを優先したナックルとシュートと想いより使命を優先したユピー。
最後の最後まで戦い抜けなかったモラウとノヴと最後の最後まで戦い抜いたプフ。
(ちなみにキメラアント編でゴンの見え方が変わった人が多いかもだけど、僕はゴン自身は最初から一貫してイカれていたのであれは平常運転と思ってる。これも詳しく書くと話がズレるから別の機会に)
討伐組と護衛軍の差は、ヒトによる性質とアリによる性質の差によって生じていると分析できる。
違うサンプル例として、幻影旅団を持ってくると分かりやすいかもしれない。
鉄の掟を作っていた幻影旅団。
しかし、彼らにはどんなに足掻いてもヒトとしての性質から逃れることができない。
そのため、どんなに厳しい掟で縛っていても、メンバー内で意見(クラピカに攫われた団長を助けるか否かなど)が分かれることがある。
(ちなみに幻影旅団がクモと名乗っているのは、ヒトとしての性質を少しでもなくすためなど色々考察しているけど、これも話がズレるからまた別の機会に)
一旦、簡単にまとめると、ヒトとアリは真逆の性質を持っていた。
それが時に善悪であったり、時に『個』や『種』であったり、時に『秩序』や『無秩序』で表されている。
ネテロ会長のもう1つの役割(詳細)
ここまで来たらメルエムの対比対象はネテロ会長に思えるが、メルエムの対比対象はジャイロだ。
ネテロ会長には語り部的な役割があったのではないかと僕は考えている。
なぜなら、ネテロ会長は1人で『正の側面』と『負の側面』を持ち合わせていたからだ。
正の側面:種のために戦った
負の側面:個のために戦った
正の側面:メルエムの出現に感謝していた
負の側面:これまでの環境に憎悪していた
正の側面:救いの象徴である百式観音
負の側面:悪意の象徴であるミニチュアローズ
など。
人は大なり小なり正と負の側面を持ち合わせているが、1人でここまで極端に真逆の側面を描けるキャラクターは、ネテロ会長以外にいないだろう。
ネテロ会長の心理描写や発言から読み取れること。
「ヒトとアリは決して交わらない」「それに気づいていない」
→善悪などの相反するものは交わらないことを強調している。
「人間の底すらない進化(悪意)を」
→ヒトの本質が悪であることを強調している。
そして、ネテロ会長が奥の手として使用したミニチュアローズはこの上なく被人道的な悪魔兵器と語られている。
ミニチュアローズで命を奪われた人の数は512万人。
選別で死ぬと想定されていた人の数は500万人。
さらに爆心地にいなくても、毒(悪意)に侵された者は近くにいるだけで、人の命を奪う存在になってしまうというのは、人の悪意の伝播を暗に示しているのではないだろうか?
「ヒトとアリで何が違うのか。奥の手にこれを選んだネテロの内にそんな想いが全くなかったのか今となっては確かめようもない」
→キメラアントがもたらす被害よりも多くの者の命を奪った兵器を使用したことで、アリ以上に残酷なのはヒトであることを強調している。
アリ以上に残酷なのはヒト。
それを伝える役割がネテロ会長にはあった。
ゆえにメルエム(アリ代表)の対比対象は真逆の存在であるジャイロ(ヒト代表)である。
メルエムとジャイロの対比
対比ポイント①
メルエムの目的:『世界を統べること』(秩序)
ジャイロの目的:『世界中に悪意をばら撒くこと』(無秩序)
対比ポイント②
メルエム:本物の王だった
ジャイロ:仮初の王だった
対比ポイント③
メルエム:死亡した
ジャイロ:生き残った
対比ポイント④
メルエム:皆から愛されていた
ジャイロ:誰からも関心を向けられなかった
メルエムは生まれる前から女王の愛を一身に受け、生まれた後も護衛軍から慕われていた。
一方、ジャイロは実の親からさえ関心を向けられなかった。
対比ポイント⑤
メルエム:キメラアント編のメインだった
ジャイロ:キメラアント編にほとんど関わらなかった
キメラアント編はメルエムを軸に物語が進行していた。
一方、ジャイロが本編に関わらなかった。
これもヒトという存在を表している気がしてならない。
キメラアントは世間を騒がせていたものの、世界規模で見れば、大半の人間は「自分には関係ない」とキメラアントに興味も示さず過ごしていた。
ジャイロも同じように「自分には関係ない」とキメラアント編からあっさりと消え去ったのではないだろうか?
対比ポイント⑥
メルエム:コムギと出会ったことで、ヒトとして生きることを選んだ。
ジャイロ:キメラアントに食べられ、アリとして生きることになった。
対比ポイント⑦
メルエム:強かった
ジャイロ:弱かった
メルエムは最強で
ジャイロはキメラアントに襲われて死ぬほど弱い(ただのヒト)。
以上のことから、ジャイロは『ヒトとアリの対比』を描くための存在だったのではないだろうか?と考える。
そして、今後ジャイロは登場するのか?という問いに対して僕は「NO」と言いたい。
なぜなら、ジャイロの『ヒトとアリを対比する』という役割を果たしたから。
では、なぜゴンとジャイロが出会わなかったこと、将来出会うような表現をされていたのか?
ゴンとジャイロが出会わなかったのは「みんな気づいていないだけで、ヒトの悪意というのは案外近くにいるんだよ」というメッセージであり、ゴンとジャイロがいつか出会うような表現がされているのは、ゴンが将来的に戦うことになるのは、ヒトの悪意ということの示唆ではないだろうか?
ヒトがいる限り、悪意がなくなることはない=ジャイロ(悪意)はどこかで生きている
本当の敵は結局ヒト説
キメラアント編に込められたメッセージは、ヒトは自己のために争いを繰り返す存在であるということなんだと思う。
復讐者としてのクラピカを生み出したのも
その原因となった幻影旅団を生み出したのも
ビノールトを生み出したのも
ジャイロを生み出したのも
キメラアントを凶悪にしたのも
モレナを生み出したのも
全てはヒトの悪意に由来している。
ならば、ヒトを止めることができるのもヒトだけだろう。
キメラアント編に込められたメッセージ まとめ
ここまで、散々ヒトは悪だの無秩序だの散々言ってきたが、ヒトが単に悪意だけの存在でないことも、キメラアント編では示されている。
メルエムの変化やディーゴ総帥の選択がその例だ。
メルエムは最初「種」としての使命に従い、他を支配することが自分の天命だと考えていたが、コムギとの出会いを通して「個」を優先する生き方を選ぶようになった。
彼は目の見えないコムギに初めて光を与え、自身もその光に触れることができた。
これこそ、ヒトが持つ「善意」を象徴している。
ディーゴ総帥(本物)も同様に、自らの地位を捨て、目立たない場所で静かに自給自足の生活を送るという選択をした。
彼の行動は、ヒトが必ずしも権力や欲望に囚われるわけではなく、自分の欲望を超えて平和を選ぶことができるという希望を示しているのではないだろうか?
キメラアント編は「ヒトは善か悪か」という二元論ではなく、ヒトはその両方を内包する存在だということを強調している。
ヒトは悪意を持ち、自らの利益のために他者を犠牲にすることもあるが、他者に光を与え、共存を選ぶこともできる。
この複雑な二面性が、ヒトをヒトたらしめている根本的な性質なのかもしれない。
ゴンのらしからぬ言動然り、ネテロ会長の葛藤然り・・・
キメラアントは「種」を守るために生きる存在であり、その秩序が彼らの強みだった。
しかし、ヒトの「個」がアリに混じったことで、彼らは個々の欲望に従い、無秩序へと堕ちていった。
この過程は、ヒトの社会においても同じことが言える。
ヒトの社会は秩序を重んじているが、個々の欲望が衝突することで無秩序に向かうリスクを常に抱えている。
そして、ヒトとアリが持つこの相反する性質は、どちらか一方に傾倒することもない。
むしろ、ヒトの悪意と善意が常に拮抗し、その間でバランスを取りながら生きていくことが、ヒトという存在の本質ではないだろうか?